緑の我が家/小野不由美

一人暮らしをすることになった高校生が不動産屋任せで適当に決めた物件は、実は地域でも有名な幽霊アパートだった、というお話。小野不由美の初期ホラー作品で最近新装版が出たということで初読。
導入部分を読んで、普通現場見もせずに住むところ決めたりしないだろとちょっと思ってしまったが、親の都合で小さいころから転校を繰り返す生活だったというところでまあ彼にとってはそれほどありえない話ではないのかなと一応納得。一見全く普通のアパートなのになぜか嫌な感じがつきまとい、徐々に怪異が現れていくという展開のじわじわ怖い感は小野不由美のホラーらしく一気読み。楽しくダークになれる嫌な良い本。
緑の我が家 Home,Green Home (角川文庫)

たまごの旅人/近藤史恵

新米の海外ツアーコンダクターが頑張る話。
アイスランドクロアチアスロベニア、パリ、西安へ赴く章立てとなっていてそれぞれ具体的な見どころが物語の中で展開されるので実際に行ってみたくなる。
ツアーにはトラブルがつきものだが、引率するツアー客のクレーム的な「嫌な話」が毎回あって少し読むのが億劫になる面もあるが、実際のツアーコンダクターはきっともっと大変なんだろうな、と思って思わず嘆息してしまった。コロナ禍の発生もストーリーに組み込まれていて、フィクションの形ではあるが史実を具体的に伝えるコロナ禍文学ともいえるかもしれない。
たまごの旅人

虚構の劇団 解散公演「日本人のへそ」@座・高円寺


虚構の劇団の解散公演。
長い間見守ってきた思い入れのある劇団だけになんとも残念ではあるが、最後をしっかり見納めしたいと強く思って座・高円寺へ観に行った。
作品は井上ひさしの戯曲デビュー作で映画化もされた作品。今回初めて観たが、リズム感のある複雑な言葉遊びや超絶長台詞が満載、公共の電波には乗せ難い毒もあるし尺も長い、井上ひさしらしいかなり難しい芝居。なるほど解散公演に相応しい大作で、きっと鴻上さん的には虚構の劇団の門出にどどーんとある意味卒業試験をかましたんだなという印象。
メインキャストの2名に客演を入れつつ出来上がった芝居は期待に違わぬ非常に良い出来で非常に楽しくそして感慨深かった。


後日もう少し詳しく書きたいと思う

文豪怪談傑作選 芥川龍之介集 妖婆

先日読んだ短編集の芥川龍之介作品にいかにも文豪を感じる文章があっていたく感心してもう少し良んでみようと思って手に取った短編集。
正直残念ながら入れ込むほどの面白さは感じなかったのだがそこそこ楽しめた。
そのうちまた他の作品も読んでみたい。

Hacoソロライブ @Ftarri「Ftarri水道橋店10周年記念コンサート・シリーズ」


今夜はFtarri水道橋店でHacoの歌ものソロライブ。
東京でのライブは4年ぶりと言っていたが私が前回行ったQoosuiリリースツアー@七針は2017年10月なので丸5年ぶり。
ノートPCとカオスパッドを軽やかに操りながら歌うHacoは相変わらず繊細で美しい音に満ちた空間を緻密に織り上げる随一のパフォーマー。控えめにいっても凄すぎた。


今回はFtarri水道橋店10周年記念コンサート企画ということでライブ会場は店舗内の狭いライブスペース。コロナ禍対応で客は20人限定。予約者が全員来店するまで待っていたので始まったのは予定よりすこし遅れて20:15ごろだったか。始まるまではFtarriのコアすぎるCD/LP/カセットテープの商品ラインナップを眺めて過ごした。
ちなみにFtarriはもともと鈴木美幸氏が運営する「Improvised Music from Japan」という通販Webサイトの物理店舗ということで、店舗は10周年だがWebサイト自体はたしか1990年代からあって当時からHacoもリストされていたと記憶している。この界隈の音楽に興味を持ち始めていた私はこの趣味に満ち満ちたサイトを見つけてなんか生意気にもこんな人の音源も扱ってほしいと氏へ直接メールした結果、丁重にお断りの返事をもらった記憶がある。ということで私にとっても20年以上の過去と今がようやくリンクしたような特別な喜ばしい心持ち。Ftarriさんおめでとうございます。


ライブは2部構成。
1部は2021年6月18日リリースされたHacoソロ最新8thアルバム「NOVA NATURO」から、2部は過去作品から。それぞれ30分強ずつのステージ。
Hacoは薄紫のふわふわ衣装にいつもの長い髪姿で登場。10周年記念ということで冒頭MCにてお店へ一言祝辞を述べてからライブ開始。
照明が落ちてプロジェクタで背景映像が流される中、静まり返った会場でMacBookをミニマウスでクリックする音とKORGKAOSS PADのプログラム選択つまみをカリカリ回す音が大きく感じられるがこの静けさも含めてHacoのステージという感じ。そして音が流れ歌いはじめた瞬間からもう狭いステージ空間は無限の広がりを持った別世界。脳髄を上質のスパークリングワインの細かい泡でしゃわしゃわ洗われているかの如くの心地よさ。昇天しそう。単にカラオケ的にバックトラック流しているのではなく意外と常に音を操作し「演奏」しているのでライブとしての臨場感、一体感があるのもいつも不思議に思うところ。滑らかな手や身体の動きもひとつひとつ考えられているのだろう、動と静、背景映像とも相まってビジュアル的にも美しくて非常に印象的だった。


曲名を覚えられない私がわかったのは2部の最後Riska収録の「プルシャ/Purusa」のみ。
アンコールは無いかな、と思ったらしっかりやってくれた。これが鳥肌もののAfter Dinner「髪モビールの部屋/The Room of Hair Mobiles」。以前CDで再発されたスーベニール・カセットやGlass Tubeのボーナストラックにも収録されているが、衝撃的に良かった。机の上の木琴たたくときのマレット、何に使うんだろうと思っていたらこの曲のためだった。ライブでこの曲を聴くことができたのは一生ものの宝だと考えている。
とにかくHacoのライブめちゃくちゃ惹き込まれた。もっと東京来てほしい!と常々言っていることをまた書いておく。


開演前に持っていないCDを2枚ほどHaco本人から購入させていただいた。
本当はもっとほかにもほしいのがあったのだがぼやぼやしていたら先に買われてしまった。
ライブ後にサインしてもらっている人々うらやましいなーと思いながらも勇気振るわず。



県庁おもてなし課/有川浩

久しぶりに読んだ有川浩作品。出身である高知県の県庁に実際にある「おもてなし課」を舞台に、高知観光の魅力を活かした集客の取り組みに四苦八苦する職員の成長と恋愛模様を描いている。相変わらず有川浩の恋愛の機微を描く筆は冴えておりところどころでぐっと心が動かされてしまった。高知の観光を掘り起こすための様々なアイディアも面白いし県庁の取り組みとしての苦悩やそれを打ち破る爽快感も素晴らしい。かなり分厚い本だったが一気に読まされてしまった。やっぱり面白いな有川浩


県庁おもてなし課 (角川文庫)