私は忘れない/有吉佐和子


有吉佐和子作品は唯一「開幕ベルは華やかに」しか読んでいないのだがこれがとても面白かった。ということで他作品も読んでみようと思って手に取ったのがこれ。
「開幕ベルは華やかに」は、一見華やかに見える舞台の裏の生々しい人間模様と、上演と同時に進行する殺人予告事件が相まってとてもスリリングだったが、この「私は忘れない」はミステリではなく、失意の新人女優がたまたま赴いた離島で自然との闘いや離島であるが故の様々な問題に直面することで自分を取り戻していく成長物語。有吉佐和子なだけに当時の離島問題をしっかり把握しそれを作品の中に織り込んだものと思われる。生活の不便さや離島故の閉塞的血縁関係など今は解消されていることが多いだろうがフィクションの中にもこういう時代の空気を表現したものはとても意味があることだと感じる。