ガン病棟のピーターラビット/中島梓

栗本薫が亡くなったのは2009年5月末。もうすぐ12年と言うことか。訃報に接した時の衝撃と落胆もようやく薄れて冷静に読めるかなと本書を手に取った。
ガンで入院してとりあえずの退院をするまで、2008年1月から2月にかけて記述されたエッセイ。あとがきが2008年6月末付で書いてありそこで手術後の検査で原発癌を取りきれず転移が発見されたことが報告されている。
本編もあとがきもいつもの栗本薫らしさに満ちており、事実を正面から捉えた上での生きてゆくことへの姿勢が深く伝わってくる。
落ち着いて読めるかと思ったけどそうでもなかった。
グイン・サーガをはじめ未完のものが多々あるのも残念だし、存命だったら新しく生まれたであろう無限の可能性の作品が世に出なかったことも悔しく思う。そしてそれは栗本薫のあとがきが読めないと言うことでもあり、更にその喪失感を大きくしている。今回このエッセイを読んで思ったのはやはり栗本薫の紡ぎ出す文章には共感と親しみを抱かせるものがあって強烈に惹きつけられてしまうということ。カリスマ性という一言では言い表しがたい何か大きなもの。改めて存在の大きさを感じてしまった。
絶筆はこのあとがきにて「書き始めている」としている「転移」というエッセイらしいが、それに手を出すのは勇気がいる。
もう少し時間をください。

ガン病棟のピーターラビット (ポプラ文庫)

ガン病棟のピーターラビット (ポプラ文庫)

  • 作者:中島 梓
  • 発売日: 2015/01/02
  • メディア: 文庫