蹴りたい背中/綿矢りさ

「インストール」が今ひとつピンとこなかった綿矢りさ。今回これを読んでみたら面白かった。
新しい学校生活になじみ切れず孤立する女子高校生と、似た境遇に見えるアイドルオタクの同級生の男子の奇妙な交流。
孤立している点は似ているが実は対象的な二人というのが私の印象。
主人公はクラス内の友人グループに入らず、誘われても自ら「自分は人を見る目があって友人の趣味が良いのでつまらない友人は作らない」と自ら壁を作っている。でもそれは中学の頃からの仲が良かった友人がうまく新たな人間関係を作って溶け込んでいることに対しての喪失感や裏切られ感、嫉妬などを押し隠したもので、深層では自分に興味を持って欲しいという切実な感情が本質にあると感じる。ちょっとしたタイミングやすれ違いで人間関係の構築に失敗して無意識的に必死に自己防衛に走る若い心理が良く描かれている。
これに対してドルオタの男子は主人公とは違い周囲に媚びる気持ちは全くなく、彼にとって重要なものは追っかけ対象の「オリチャン」であって、周囲から孤立している事は客観的に冷静に理解はしているが全く気にしていない。
主人公にとってはこの一本芯の通った揺るぎなさは驚異であり、謎であり、憧れなのではないだろうか。主人公は彼に対して恋愛感情は全くなく、思わず蹴りたくなるのは彼の苦しむ様を見たいからと言うが、ではなぜ苦しむ様をみたいのかという理由はそこではないだろうか。
甘い恋愛描写は全くないが自らも気づかない恋愛前感情をうまく描き出していて面白いと思った。

蹴りたい背中 (河出文庫)

蹴りたい背中 (河出文庫)