ねじまき少女/パオロ・バチガルピ

ヒューゴー賞ネビュラ賞ローカス賞トリプルクラウン、その他、キャンベル記念賞や日本の星雲賞まで勝ち取っている作品。帯には「『ニューロマンサー』以来の衝撃!」と刺激的な惹句。
実は以前100ページくらいまで一度読みかけたのだが、なかなか入り込めずに投げ出してしまった。今回はちょっと気合い入れて最初から読み直したら、途中からはある程度すんなり一気に読めた。が、やっぱり読みにくいは読みにくい作品だったかな。話がどういう方向に行くのか良く分からないままいろいろな登場人物のそれぞれのシーンの描写が続くので最初の方は辛抱が必要。世界観と登場人物の周辺状況が分かってからようやく本格的にストーリが展開し始める印象。んで、そのストーリの方はまあまあって感じで、この作品の主役は人物ではなくて、遺伝子操作とその弊害の疫病の恐怖に支配され、しかも石油が枯渇したこの近未来社会の構造や歴史の方な気がする。この世界を舞台にしてもっといろいろな魅力的な話を展開できそうだ。この作品はその先駆け的な位置づけになるのではないかな。
タイトルがねじまき少女で、うごきがかくかくしている少女が出てきて、しかも最初の方にはねじまき作っている工場が画期的なねじまきの開発に成功したぜ、というようなシーンが出てくるので、てっきり少女は本当にねじまき駆動で、世界のあらゆる動力もすっかりねじまき化されて、コンピュータもすべて機械式のがちゃがちゃいうやつになっていて、、、とか、いわばねじまきパンクな感じになるのかと思ったらこれもちょっと違った。なんだろ、タイトルとか概要とかの印象と、読んだ後の中身の印象が微妙に合わなくて気持ち悪い。面白かったし世界観には異様なリアリティが感じられてたしかに衝撃的なもので読む価値は非常に高いと思うのだけど。タイトルは作者の意図もあるからこの辺も含めて狙いなのかもしれないが、英語文化じゃないからなー。うーむ。
ちなみに私は「ニューロマンサー」は最初さっぱり理解できず、読み通せたのは他のサイバーパンク作品で分かりやすいやつ読んで、頭になるほどこういう感じの世界観なのね、と染み込んでからだったので、SF的柔軟な頭は無いという自覚がある。なので私のこの感想もあまり信用ならない。
あ、念のため、ニューロマンサーを引き合いに出しているが、このねじまき少女は別にサイバーパンクではない。帯に書いてあるように、(ちょっとピンとこない気もするが)「エコSF」。今までとはかなり異質でリアル世界観の作品が出てきたよー、という意味での惹句かと思われる。


ねじまき少女 上 (ハヤカワ文庫SF)

ねじまき少女 上 (ハヤカワ文庫SF)

ねじまき少女 下 (ハヤカワ文庫SF)

ねじまき少女 下 (ハヤカワ文庫SF)